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筆の正しい「使い方」「捌き方(おろし方)」「洗い方」製筆工程の差がもたらす和筆と唐筆、使用の基本差 「唐筆使用の基本」

毛筆の“構造”と“製筆特性”に沿った「筆」の正しい使い方
 
筆の上手な 「捌き方(おろし方
「洗い方」
 唐筆の工程特性に伴う『伝統的な唐筆の使用基準』
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筆の上手な捌き方(さばきかた)おろし方
筆の頭は「布海苔(ふのり)」で固められています。筆を使う時には、先ず「筆頭」を(さば)きます(除く:捌き筆)。
筆頭の根元までおろす(捌く)時も、途中までおろす(捌く)時も、おろす範囲(巾)に関わらず筆は使えるように作られています。そして、書き手によりおろす範囲巾の好みは異なり、書き手個々が「丁度よい」と感じる範囲がその書き手にとって丁度よいおろし(捌き)巾なのです。
「書ける字の範囲」は、おろす巾により異なり、同じおろし方≒巾でも書き手個々により書ける字の範囲は異なります。
根元まで全部捌く。筆頭の2/3程度捌く。・・・、・・・・。等々「どのあたりまで捌く」のが適切なのかは書き手それぞれの「書き慣れ」や「感性」により、更に「その時々の作風」にもより異なり、各時点で書き手個々が「書き易い」とする部分まで、或いは書き手を指導する師が「ここまで」と指導される部分まで、その箇所が根元までなら「根元まで全部」、・・・、いずれの箇所までおろすのも「書き手が合うと感じる箇所」、或いは「師の指導される箇所」までおろして(捌いて)ください。
   指導者=師の指導(指示)がある場合は「その指導者がここまで、とされる部分まで捌く」を優先してください。
捌き方は、筆頭の先の方から順次ほぐしていけばよいのです。
そして、筆頭を固めている「布海苔(ふのり)」は天然の海産品で、根元までおろしたい人にも、途中までおろしたい人にも容易に捌く(おろす)ことが出来る接着剤の一種で、容易に「捌けること≒解せること」を前提に使用されます。
しかし、その「固まりの強さ」は使用時点の布海苔により大きな巾があり簡単にほぐれていく。とても強固に固まっている。・・・。など天然産品として避けられない強度差があり、筆先は固かったのに少し捌いたら簡単に根元までおりてしまった。・・・、・・・、等々、ご使用個々の思い通りに捌くのが困難な時も多々あります。
書き手にとって「丁度よい」、と判断される箇所まで捌けた(おろした)時はそのままご使用ください。
おろし過ぎたとき、この場合は一旦根元まで全部おろし、“濃いめの墨”を根元まで充分に含ませ、5〜6字、出来たらもう少し多めに書いてください。これで墨は筆頭の根元まで浸透します。この墨を「おろしたい(捌きたい)筆頭の部分」近くまで、水で薄めます。
 墨の主成分のひとつ「膠」は、伝統的に接着剤としても使用さる「強固な接着剤」です。
濃墨を浸透させ乾かせた筆頭の部分はおろす=捌くことが困難な強度を得ます。
水で薄めた部分は(その薄め方にも依りますが)ほぐす=おろす=捌くことが容易になります。
これで、ご使用個々のお好みに合う筆頭の「捌き方(おろし方)」ができます。

「筆頭」を軸に挿入するため筆軸の内側を削りますので、筆頭の入っている部分の軸厚は薄くなっています。
前項に併せ、以下を参考に「筆頭」を捌いてください。
 


唐筆 (唐筆の中でも中筆〜太筆)の伝統的な使用方法(使用基準)  
1: 筆頭を丁寧に根本まで捌きます。
捌く方法は、水に浸けて捌きやすくしてから捌いても良し、手で筆頭の先から少しずつ捌いても良し、です。
2: 捌いた筆頭の根本まで充分に「濃墨状態に摺った墨」を浸透させます。
根本部分に浸透した墨は濃墨のまま残し、それより筆先の部分、捌きたい部分を水で薄め次回筆を捌くことを容易にします。
筆頭が軸と接している=筆頭が軸から出ている=個所から5mm〜、筆の太さにより10mmほどが濃墨でキッチリと固められます。この濃墨で固めた根本部分を捌かず筆を使用します。
「唐筆」独自の「捌き方」は、以下の和筆と唐筆との伝統的な製筆工程の一部「芯立て工程」の差に起因します。
この工程差は、20世紀末頃から、私を含めた日本の筆司がそれぞれの中国筆司との交流の間に、
「唐筆工程」がもたらす「和筆」に比べ“毛が抜け出やすい筆”となる唐筆の“工程の流れ”を指摘し、或いは中国筆司が気づき改善が進んできました。
2019年の現状では、まだこの工程改善を終えた筆廠、改善の必要性に気づいた筆廠、そして筆司=筆職人は、
膨大な中国筆廠の、そして筆司の一部にとどまっています。
 
 提案当初は、中国筆司のプライドもあり、この工程部分だけでも和筆の工程を採用するように進言しても「ホボ無視」の状態が続いたのですが、ひとつの筆廠が試験的に採用し「毛の抜けが減った。工程全体の流れが改善された」との評価を得ました。以降、全部の筆廠とはいきませんがある程度の筆廠が「和筆工程の一部」を採用し、以降これら筆廠の筆は唐筆独特の使用方法でなく和筆と同じ使用で済むようになりました。
改善点: 
唐筆の伝統的工程では「筆頭接着工程」を終えてから筆頭に残る「余分な毛」「残っていてはいけない毛」を取り去る作業をしていた。
「筆頭の根元を強く締め毛抜けを出来る限り抑える」和筆工程では、筆頭を軸に付けてから余分な毛などを取り去る作業はとても困難であり、且つ、折角仕立てた筆頭自体のバランスや性質・品質を狂わせる心配も生じる。
筆軸に筆頭を接着した後に「余分な毛などを取り去る」工程の唐筆では、「筆頭根元を強く締める工程」での「締める程度」を「毛先を強く引けばその毛が抜け出る程度の“締め具合”」を「適」とする 筆頭を軸に接着した後に「余分な毛、あってはいけない毛」を取り去る作業工程だったので、「筆頭」 の根元を強く結び「毛の抜け」を防ぐ和筆の「緒締め工程」と同様の工程は「引っ張れば毛が抜け出る程度」にするのが佳い、とされた。
唐筆工程のこの一部を変更し「緒締め」までに「余分な毛を取り去る」工程を加え、和筆同 様に「シッカリとした」緒締めをし筆頭の毛の抜けを、出来るだけ防ぐ。これが出来る様に「尾締工程」にいたるまでに「余分な毛」を抜き去る作業工程「和筆芯立て工程」相当する作業を取り入れたのです。
(以下は、旧来の唐筆工程説明です)
 「唐筆」の製筆工程は「和筆」の製筆工程と一部工程・手順が異なります。 
国産筆は、製筆半ばに為す芯立て工程」で余分な毛、逆毛などを取り去り筆先を整えてから筆頭の根元をしっかりと締め(尾締め=焼き締め工程)筆頭の毛が抜けないように「筆尻を焼くと同時に緒で強く締め」ます。
既に筆頭の余分な毛やあってはいけない毛は「芯立て工程」でキチンと整理されていますから「尾(緒)締=焼締工程」で筆頭から毛が抜け出さないように「キッチリ強く」締めるのです。
筆頭を捌いたとき、或いは使用中に少量=10〜20本程度=の毛が抜け出てくるのは「筆頭の根本にまで届かず筆の中で遊んでいる状態の毛=おくれ毛」であることがほとんどで、筆頭の根本から抜け出す「抜け毛」であることは、和筆ではあまりありません。
伝統的な唐筆工程には前述の「芯立て工程」がなく「余分な毛、逆毛」などを取り去り筆先を整える和筆の芯立工程に相当する作業は筆頭が筆軸に接着されてからなされます。
筆軸に接着してから筆頭の余分な毛、あってはならない毛、逆毛(毛の先と尻が逆に入ってしまったもの)などを抜き去る工程(=和筆では「芯立て工程」でこれを終えています=)を行うと同時に筆頭の形を整えるのです。
中国、そして和筆の私の製筆工程、有馬筆工程ではこの一連の作業を「仕上げ」と呼びます。
前述の通り、
唐筆には、筆先を最終的に整える和筆の「芯立て」に相当する工程がなく、「筆頭を布海苔(ふのり)固め」し筆頭の形を整える「筆造り最終工程」の直前期に本格的な「余分な毛、逆毛などを取り去り筆先を整える」作業をしますので、「尾(緒)締=焼締段階」の作業内容が和筆とは異なり、後々筆司が不要な毛を抜こうとすれば容易に抜き出せる、が簡単に抜けるのを防ぐため少し強めに毛を引っ張れば容易に毛が抜け出す、程度の締め具合に調整します。この調整だけでは毛がかなり抜けてしまうことになりかねませんので「松ヤニ」を筆頭根本に塗布し毛と毛の抵抗力を増やします。
筆頭を筆軸に接着した後抜きたい毛、取り去りたい毛は抜き出せる程度の締め方・抵抗の付け方です。
余分な毛を取り去り筆頭の調整・最終「仕上げ」をしながら布海苔で筆頭を固めると共に形も整えます。
毛先を引っ張れば抜ける」状態の締めを前程とした筆製作が唐筆の工程ですので「筆頭の軸と接している根本部分は墨でキッチリ、シッカリと固めこの根本部分まで捌かないようにして使用する
これが唐筆には必要なのです。
『和筆』工程の最終段階は、「芯立て工程」「尾締=焼締工程」を経て既にキチンと仕上がった「筆頭」を「布海苔で固め形を整える」だけなのですが、日本でも、特に私の作る有馬筆筆司はこの工程を「仕上げ」と呼びます(産地により“海苔取り(のりとり)”と呼ぶこともあります)。≪仕上げ≫は中国から伝播したそのままの呼び方で、工程手順に工夫がなされ日本(有馬筆)の工程の一部が革新された後も当初伝わった工程名をそのまま利用した名残りと言えるものです。
 
以上のことで「唐筆」の使用の基本は、中国の筆使用手順
まず、捌いた筆頭の根本まで充分に「濃墨状態に摺った墨」を浸透させます。
根元部分の墨は濃墨のまま残し、それより筆先の部分を水で薄め次回の筆捌きをを容易にしておきます。
これにより前述唐筆工程の「筆頭根本の締め方」による「毛の抜け」を防げ、筆頭根元をキッチリと締め毛の抜けを抑える和筆と同等の書き様が可能になります。
筆本来の上手な洗い方
以下ご案内する「筆の洗い方」、
筆を長持ちさせる、そして筆の性質を出来る限り旧の状態に保つ「伝統的」な筆頭の洗い方、処し方。
筆の性質・品質を出来る限り損なわず、そして筆を長持ちさせる「本来の筆の洗い方」、
これらは20世紀後半、特に1980年の少し前頃からその勢いを増し「筆の洗い方」の新常識ともなってしまった感が漂う筆の洗い方と相いれません。“下段”が古くから伝わる、筆を正しく長持ちさせる「筆の洗い方」です。
どちらの洗い方が筆の性質を出来る限り引き継がせ、そして長く使用出来るか、などはご覧いただく方々個々のご判断で決めてください。
使用者個々の使用慣れの範囲下で、或いは指導者に従った範囲で筆頭をおろし=捌き使用する。
筆先をおろした部分≒墨に浸した部分までを「筆洗」等に浸し軽く揺するなどし、筆の大きさ、使用者個々の感性などにて適切と感じられる程度に筆頭の墨を薄める。筆頭の水分(≒墨)を反古紙などにて拭き取るとともに形を整える。

筆頭を根元までおろした時は筆頭全体を水に浸ける。
前述と同様作業の後引き上げた筆頭の水分と共に墨も軽く反古等にて拭き取るとともに形を整える。
筆頭の根元部分の墨も全体に準じある程度まで薄められる。何度かこれを繰り返すことにより「筆頭に残る墨分≒炭素」は薄められ「筆頭の獣毛」に適切な保護剤となる。

筆頭を綺麗に洗いたい、根元に残る墨をも完全に洗い流そう、筆頭を綺麗に保とうと、いろいろな方法で筆頭を洗う。
洗いの度に筆頭に含んだ墨分は薄まりその大部分は洗い流せる。
が、これは前述の「筆頭を水に浸け墨分を薄めると共に整える」洗い方では決して墨が入り込まない筆頭の奥(根元)に、一回の量はごく僅かであっても毎回毎回墨を押し込んでいるのと同様の作業になる。
この繰り返しにより筆頭の根元は押し込まれた墨により徐々に膨らむ。
根元奥に押し込んでしまった墨分を綺麗に洗い流すこと。これは先ず不可能に近い作業で、押し込まれた墨の量に比例する膨らみに連れ筆先はまとまりにくくなる、の結果を迎えます。

★書く時、書くことに先立ち墨を摺る。
これを普通に為される方々なら墨を摺っている間に前回使った筆の筆頭部分を水に浸けておく。硯の池部分に浸しておく。或いは筆洗等々に水を入れ浸しておく。これで墨を摺り終える頃には筆頭の墨は緩み楽に筆を捌くことが出ます。
液を使うのであれば「ほんの少し前」に筆を前項と同様筆洗等々に水を入れ浸しておく。これで書き始めるころの筆頭は緩み楽に筆を捌くことが出ます。
この「筆の使い方=洗い方」は「つい最近」⇒1970年代の半ばころまで、大家と言われた書家の多くがなさっていた「筆を長持ちさせる」、正しい「筆頭の洗い方、筆の処理法」です。
筆の頭を「洗え 洗え 根元まで墨を残さず綺麗に洗え」式の筆保存法は、筆の歴史から見れば極々最近突然わき上がった保存法で、その状況により筆の寿命を著しく損ねかねない処理方法です。



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