筆 の 原 毛 に つ い て  猪(イノシシ) (豚(ブタ)?) みなせトップへ 筆トップヘ
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貂(てん) 猪 ( 豚 ?) 化学繊維/ポリアミド繊維(ナイロン) 筆の実  兼毫??  

 猪(イノシシ)   豚(ブタ)  ?
猪(イノシシ)の毛は剛毛です。
私が手掛けた猪(イノシシ)の毛の色は「ややオード色を感じさせる程度の白に近い薄茶」や「それほど濃ゆくない黒色」がほとんどです。
猪(イノシシ)の毛単独で筆頭を制作することもありますが、ほとんどの場合筆の弾力補強として他の毛に混ぜて使用します。只、この弾力は水分を与えると幾分減少します。乾燥時に感じた弾力が実際に字を書く時には減少してしまうのです。高級筆には用いられない理由の一つです。

日本語の「豚(ブタ)」は中国語で「猪」、日本語の「猪(イノシシ)」は中国語で「野猪」です。
日本人が「猪(イノシシ)」、又は「豚(ブタ)」と表現する時、これは明らかに違う動物を意味(動物学的な意味ではなく、一般人が捉える動物像として違うという意味です)しているのですが、通訳が中国語に訳すときはいずれの場合も「猪」となってしまうのが普通です。
日本人の感覚として「猪(イノシシ)」を意味して「イノシシ」と言ったときも、「豚」を意味して「ブタ」と言ったときも、中国語では「猪(中国発音ZHU(ツッ))」、つまり中国語の意味では「豚」と訳されてしまうのが通常です。

逆に見れば、中国の筆関係者が“猪(イノシシ)”を指すつもりで発音した「ZHU(ツッ)」は「豚(ブタ)」として日本語訳されるのが普通です。
筆に関する限り日本語訳は「猪(イノシシ)」であるべきなのですが、筆専門の通訳でもない限り「豚(ブタ)」と訳してしまいます(筆専門の通訳は存在しません)。
これが原因で、中国の筆関係者が日本語の「猪(イノシシ)」のつもりで説明した動物の毛が「豚(ブタ)」と訳され、「豚(ブタ)の毛」も筆の毛になるんだ、との誤解を生みます。
特殊筆として作られる場合を除き、私の知る限り「豚(ブタ)毛」の筆は知りません。
「猪(イノシシ)」の毛と説明したことが「豚(ブタ)」と誤訳され「豚(ブタ)毛の筆」があるとの誤解につながっています。
「日本感覚の“豚”毛」が筆の原毛として使用されるのは普及筆の“アン”として用いられる程度です。

1980年前後に蘇州周辺に点在する筆工場のひとつを訪れていた時、通訳が中国職人の言葉を「豚(ブタ)毛を使っている」と訳しました。
私は筆職人ですので、「豚(ブタ)の毛で筆を作る」とはおかしい、「豚(ブタ)」で筆ができるとは・・・、その筆を見せて欲しい、と筆職人としての好奇心と疑問から通訳を介して工場に頼みました。
その時点では「豚(ブタ)毛」を主にした筆があるんだ、一体どのように毛を処理しているのだろう、どのような毛組をしているのだろうとの好奇心が90%、とんでもない筆になっているのではないかとの疑問は10%程度でした。
興味津々、待つこと2〜3分、早速持ち出された筆に使用されている毛は当然「猪(イノシシ)の毛」、
これをきっかけに「豚(ブタ)」と「猪(イノシシ)」の翻訳の混乱を、またほぼ100%の通訳が「豚(ブタ)」と訳して再質問など受けたことはなかった、などの事情を聞き出しました。

画筆には「豚の毛」と表示されている筆がありますが、正確に日本語の「豚」の毛を使用しているのか、又は、日本語では「猪(イノシシ)」に相当する毛を習慣上「豚(ブタ)」と表現しているのかは知りません。
書道の筆で、前述の「アン」としての使用以外では
特殊例として「豚(ブタ)毛」の筆を使ってみたいなどとの要望に応じ豚(ブタ)毛を用いた筆を作ることは他の動物の毛を使用して筆を作ることと同様全く問題なく可能です(原毛の入手が条件ですが・・・)。
しかし、一般的な書の筆の主要な原毛として豚(ブタ)の毛を使用しないのは「書の筆」にとって最も重要な「毛先」が無いに等しいからです。・・・・・・
・・・・と言いましても、私=山口 そう一=は「猪(イノシシ)の毛」は筆制作に使用しますが、「豚(ブタ)毛」は扱ったことがありません。
豚の毛の特性につきましては先輩職人達との付き合い過程で聞き及んだことを記しました。

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